最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)656号 判決 1982年12月17日
上告人
長野トヨタ自動車株式会社
右代表者
宇都宮元
上告人
長野トヨペット株式会社
右代表者
内山俊男
右両名訴訟代理人
松岡浩
鈴木敏夫
被上告人
井口太一
被上告人
大槻奉生
被上告人
白鳥誠
被上告人
滝沢利治
被上告人
鈴木明生
被上告人
白鳥初男
右六名訴訟代理人
土肥倫之
土肥幸代
下平桂
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人松岡浩、同鈴木敏夫の上告理由一について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同二について
原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 上告人長野トヨタ自動車株式会社(以下「上告人長野トヨタ」という。)及び上告人長野トヨペット株式会社(以下「上告人長野トヨペット」という。)は、いずれも自動車の販売を業とする会社である。訴外有限会社増田屋商店(以下「増田屋」という。)は、自動車の修理販売を業とする会社である。
2 上告人長野トヨタは、増田屋がユーザーに転売することを了承のうえ、自らの営業活動の一環として、かなり以前から増田屋に対しその所有する自動車を継続的に販売していた。同上告人は、昭和五一年六月から一一月にかけて増田屋に対し、同社の販売用に本件各中古自動車を、その所有権を代金完済まで留保し、代金支払方法は二回ないし九回の分割払の約定で売渡し、増田屋は、各割賦金支払のために同上告人にあてて約束手形を振り出した。同上告人は、右売買契約の際、増田屋がユーザーに転売するために買い入れることを承知し、かつ右転売を容認していた。
3 上告人長野トヨペットと従前から増田屋に対し、同社がユーザーに転売することを知りつつ、自らの営業活動の一環として自動車を販売していた。同上告人は、昭和五一年九月から一〇月にかけて、増田屋に対し、同社の販売用に本件各新車を、その所有権を代金完済まで留保し、代金支払方法は一括払の約定で売り渡し、増田屋は右支払のために小切手を振り出した。右売渡にあたり、同上告人は、増田屋から後記の転売先まで知らされ、転売を容認していた。
4 その後増田屋は、本件各自動車を被上告人らユーザーに、それぞれ所有権留保の特約を付することなく転売し、各被上告人は、それぞれの引渡しを受け、代金を完済した。
5 被上告人らは、上告人らの増田屋に対する所有権留保の特約の事実を知らず、また、これを知るべきであつたという特段の事情もない。
6 増田屋は、昭和五一年一二月に倒産し、上告人らに対する本件各自動車の代金は支払不能となつた。そこで、上告人長野トヨタは、昭和五二年五月一〇日、上告人長野トヨペットは、昭和五二年二月九日、それぞれ増田屋に対し、本件各自動車の売買契約解除の意思表示をした。
右事実関係によると、ディーラーである上告人らは、サブディーラーである増田屋に対し、営業政策として、ユーザーに対する転売を容認しながら所有権留保特約付で本件各自動車を販売し、ユーザーである被上告人らは、右所有権留保特約を知らず、また、これを知るべきであつたという特段の事情なくして本件各自動車を買い受け、代金を完済して引渡しを受けたのであつて、かかる事情の下において、上告人らが増田屋との右売買契約を代金不払いを理由として解除したうえその留保所有権に基づいて被上告人らに対し本件各自動車の返還を請求することは、本来上告人らにおいてサブディーラーである増田屋に対して自ら負担すべき代金回収不能の危険をユーザーである被上告人らに転嫁しようとするものであり、かつ、代金を完済した被上告人らに不測の損害を被らせるものであつて、権利の濫用として許されないというべきである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(宮﨑梧一 木下忠良 鹽野宜慶 大橋進 牧圭次)
上告代理人松岡浩、同鈴木敏夫の上告理由<省略>